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京都地方裁判所 昭和43年(レ)21号 判決 1969年3月08日

控訴人

加藤米男

被控訴人

吉岡良一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年七月二二日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、控訴人は、京都府知事の免許を得て、宅地建物取引業を営んでいる者である。

二、控訴人は、昭和四二年三月三日被控訴人から、その所有にかかる別紙目録記載の不動産の売却について媒介の委託を受け、井上こすえと数次の交渉の後、同月一八日同人との間に代金二、三〇〇、〇〇〇円で売買契約が成立し(以下本件売買契約という。)同年六月二六日代金完済と同時に登記手続を完了した。

三、ところで、控訴人は、買主井上こすえから本件売買契約の媒介の委託を受けてはいないが、かかる場合でも、同人に対し、京都府宅地建物取引業者の報酬額に関する規則(以下単に規則という)に則り、所定の金一一二、〇〇〇円の報酬金債権を取得した。

かりに、これが認められないとしても、本件売買契約の締結に際し、控訴人は、井上こすえから金一〇〇、〇〇〇円の報酬金の支払いを受ける旨特約した。

四、そして、控訴人は、被控訴人から、前記規則所定の範囲内にある金一〇〇、〇〇〇円および井上こすえの支払うべき前記報酬金のうち、金一〇〇、〇〇〇円、以上合計金二〇〇、〇〇〇円の報酬金の支払いを受ける旨特約した。

五、よつて、控訴人は、被控訴人に対し、報酬金債権のうち、すでに支払いを受けた金一〇〇、〇〇〇円を除く残額金一〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四二年七月二二日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」と述べ、

被控訴人主張の抗弁事実を争つた。

被控訴人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、

「一、請求原因第一、二項の事実および第五項の事実中、報酬金一〇〇、〇〇〇円の支払いをしたことは認めるが、その余の事実は争う。

二、かりに、控訴人主張のとおり、被控訴人が金二〇〇、〇〇〇円の報酬金債務を負うとしても(従つて、手取代金は金二、一〇〇、〇〇〇円となる。)これは、昭和四二年五月一五日までに売買代金が完済されることを条件としたものであるところ、同日までに完済されなかつたものであるから、これにより右約定は失効した。」と述べた。

証拠<省略>

理由

一請求原因第一、二項の事実、および、第五項の事実中、被控訴人が控訴人に対して報酬金一〇〇、〇〇〇円の支払いをしたことは、当事者間に争いがない。

二控訴人は、媒介の委託を受けない井上こすえに対しても、規則所定の報酬金を請求し得るものと主張するので、この点について判断する。

控訴人による媒介は、本件売買契約が商行為ではないから民事仲立であつて、仲立契約は、媒介という事実行為をなすことの委託をするものとして、民法上の準委任契約に該るものと考えられる。従つて、媒介の対象となる行為が、少なくとも一方の当事者のために商行為であることを前提とする商事仲立(商法第五四三条)とは自ら異り、何らの依頼を受けていない買主井上こすえに対して、仲介報酬を請求することはできないものと解される。

もつとも、この点について、商事仲立人の報酬に関する商法第五五〇条第二項を、民事仲立にも頬推適用し、委託を受けていない売買当事者に対しても、仲介報酬を請求し得るとの見解があるが、当裁判所の採らないところである。すなわち、商事仲立にあつては、媒介の対象となる行為が、商行為であつて、本来、当事者双方が商取引による営利の獲得を目的としており、媒介の利益を受ける者は、ひとり委託者のみではない特殊性に鑑みて、委託者でない相手方に対しても報酬請求権を認めているのであつて、その故に、商事仲立人に対し、委託者のみならず、その相手方に対する関係においても、特定の義務を負わせているものである(商法第五四四条以下)。これに対し、民事仲立における媒介の対象たる行為は、通常、非商人間における非投機的、非営利的性質を特質とするものであつて、不動産仲介業者が、取引関係に立つた第三者に対し、業務上の一般的注意業務を負うのは、宅地、建物取引業の社会的重要性の故に、特に要請される結果であつて、これをもつて、報酬請求権の直接の論拠とはなし得ないし、仲介業者の尽力によつて事実上、相手方が利益を得たとしても、それは、委託者に対する業務上の善管注意義務に基づく媒介の結果にほかならないものと考えられるから利益を得ている故に報酬請求権ありと論ずることは出来ない。従つて、民事仲立に、商法第五五〇条第二項の規定を類推適用することはできないものというべきである。

三次に、控訴人は、井上こすえから金一〇〇、〇〇〇円の報酬金の支払いを受ける旨特約したと主張するけれども、右の事実は本件全証拠によるも、これを認めることはできない。もつとも、<証拠>を総合すると、昭和四二年三月一八日被控訴人と買主井上こすえとの間に金二、三〇〇、〇〇〇円で本件売買契約が成立した際、控訴人は、井上こすえの代理人阪本栄太郎に対し、規則所定の仲介報酬金として、売主買主双方から当然に各金一〇〇、〇〇〇円宛支払いを受けるべきものであるから、売買代金中、金二〇〇、〇〇〇円はその報酬金に当てられることになる旨申入れたことが認められるけれども、これをもつて、直に買主との間に報酬金支払いの特約が成立したものとは認め難い。

四、以上の次第で、控訴人の本訴請求は、買主である井上こすえに報酬金支払義務は認められないので、その余の判断をするまでもなく失当である。これと異なり、その一部を認容した原判決は不当であるが、民事訴訟法第三八五条により、本件控訴を棄却するに留め、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(久米川正和 稲垣喬 大藤敏)

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